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秋の定食

第五章 秋の定食 九月になると、山の木が色づき始めた。 山口食堂の窓から、遠くの山の稜線が見える。その稜線が毎年この季節に赤や黄色に染まる。文男は子どもの頃からその景色を見てきた。飽きない景色だった。 田中は夏の間、ほぼ毎日手伝いに来た。 ...
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厨房の二人

第四章 田中が手伝い始めてから、店が少し活気づいた。 田中は洗い物と掃除を担当した。料理はしない。接客も最初はしなかったが、林さんや峰岸さんが話しかけてくるうちに、気づけば田中も応答するようになっていた。 文男は厨房で料理をしながら、外のや...
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常連たち

第三章 常連たち 六月になると、雨の日が増えた。 山口食堂の窓は古い一枚ガラスで、雨の日は外の景色が滲んで見える。田中はそういう日も来て、いつもの席で窓の外を眺めながら食べた。 昼の時間には、いつも決まった常連たちが来た。 林さんのほかに、...
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田中秀夫の事情

第二章 田中秀夫の事情 田中が来るようになって二週間が経った頃、文男は田中のことを少しずつ知るようになった。 会話が増えたわけではない。田中は口数が少なく、食べている間は基本的に無言だった。しかし文男が問いかけると、短く答えた。文男もそれ以...
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定食屋の窓から

定食屋の窓から第一章 山口食堂 山口食堂は、国道から一本入った細い道の角にある。 看板は昭和五十年代から変わっていない。白地に黒い文字で「山口食堂」と書いてあるだけで、電飾もネオンもない。ガラスの引き戸を開けると、カウンターが六席と、四人掛...